昨今,東京女子医大の小児に対するプロポフォール使用(小児への投与は添付文書上は禁忌)で
死亡事故が起こったことから,禁忌投与について考えてみたいと思います.

この判決を,トンデモ判決だと医療系雑誌に掲載されたようです.

https://twitter.com/afcp_01/status/264367337845686273



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高松高判平成17年5月17日 
 A(70歳女性)は,平成10年11月,原付で走行中,Y1の運転する自動車と衝突し、転倒して頭部等を打撲した。事故現場近くの病院で診察を受けたのち,Y2の経営する病院でB医師の診察を受け入院した。入院4時間半後,Aは昏睡状態に陥り,Bらによる血腫摘出手術を受けたが,事故後23日目に死亡した。遺族であるXらが,損害賠償を求めて,Y1,Y2を訴えた。 
 第一審では,Y1に対する請求は認容されたが,Y2に対する請求は棄却された。控訴を受けた高松高裁は,Y2の医師らには、経過観察義務及びCT検査義務を怠った過失並びに利尿剤マンニトール投与が遅れた過失があり、その過失とAの死亡との間には相当因果関係があるとして、請求を認容した。 
 高松高裁は,経過観察義務については,下記のように,「日本神経外傷学会のガイドライン」も引用して,被告病院の過失を認定した。  
「一般に頭部に強い衝撃を受けると頭部外傷が発生するが,その場合,脳には,打撲した部位の直下だけでなく,より高い割合でその反対側にも損傷ができるほか,出血が遅れて生じ,外傷性脳内血腫や脳浮腫が起こるなど病態が変化することがあり,特に,血腫が発生する場合の約50%が6時間内に,約80%が12時間内に
形成されること,通常の遅発性脳内血腫例の場合,少しずつ意識レベルが低下し,脳内血腫が一定の大きさに達したと同時期に急激に意識レベルが低下して,昏酔状態に陥ること,日本神経外傷学会の重症頭部外傷治療・管理のガイドライン作成委員会の報告(以下,「日本神経外傷学会のガイドライン」という。)によれば,『高齢
者は,talk and deteriorate(die)をきたすことが多く,挫傷性浮腫,脳内出血などによる厳重な観察が必要である。症状の悪化をみたら早期に手術(血腫除去術など)を行うことが望ましい。』とされていること,……[など]に照らせば,B医師には,外傷性脳内血腫を念頭においた臨床症状のより注意深い経過観察が必要であり 
特に意識レベルの推移,運動麻痺の出現の有無,患者の訴え(頭痛・嘔吐・嘔気など)の推移,クッシング反応の3主徴としての認識のもとでの血圧・脈拍数・呼吸状態の変動……をより注意深く経過観察する義務があるというべきである。」  
「そして,病状に全く変化がない場合や少しずつ改善傾向にあればCT検査は必須とはいえないが,病状に改善がなく少しでも悪化の兆候があれば,その後の治療や管理の参考とするためCT検査をする義務があるというべ
きである(乙ロ29)」 
 Aの治療に当たったB医師は,Aは,意識がやや清明な時期に(talk)被控訴人病院で受診したが,入院前後から嘔吐を繰り返したり嘔気を催したりし,また,頭痛を訴えるようになったにも関わらず,Aの頭痛及び嘔吐の
症状を外傷性クモ膜下出血による髄膜刺激症状であると診断し,[自院で の]CT検査に及ばないと考え,(自ら経過観察をしないのであれば)看護師に対し頭蓋内圧亢進症状につきより注意深い経過観察を指示すべきで
あったが,それを怠った過失があった,と判示した。  

マンニトール投与が遅れた過失について 
 「CT検査により外傷性脳内血腫の出現が認められる場合,頭蓋内圧亢進の進行を回避する方法としては,……マンニトール等の高張利尿剤の投与とともに,それに続く血腫除去手術以外に方法はない。……マンニトール等の利尿剤は,昏酔に陥った患者を救うためには一刻を争うものである……。 
 Y2は,グリセオール,マンニトール等の脳圧降下のための利尿剤は,急性頭蓋内血腫が疑われる患者には,出血源を処理し,再出血のおそれがないことを確認されるまではその使用が禁忌であり,能書にもそのことが明記されている旨主張[している]。しかし,能書は製薬会社の製造物責任を果たすための注意書きであって,
薬剤の作用機序やその使用によってもたらされ得る危険性を了解した上で,これに 従うか否かは医師の裁量権の範囲内である(つまり,利尿剤による出血の危険より血腫や浮腫の悪化のほうが生命へのリスクが大きいと判断した場合はその使用が許容される。)
能書と異なる使用をすることは,日本神経外傷学会のガイドライン
にも採用されているところでもある。Y2の上記主張は採用できない。」 
(引用元:http://www2.kobe-u.ac.jp/~emaruyam/medical/Lecture/slides/140222jikofunso.pdf)


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これのどこが,「トンデモ」判決なのでしょうか?

http://www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_kinki.html
【禁忌(きんき)】とは
  当該医薬品を使用してはいけない患者を記載しています。

   以下のような点から考えて、ある医薬品を使用することにより、病状が悪化したり、 副作用が起こりやすくなったり、薬の効果が弱まるなどの可能性が高いため、使用しないこととされています。

   
  • 現在の病気(原疾患)
  • ある病気が原因となって起こる別の病気(合併症)
  • これまでにかかった病気(既往歴)
  • ご家族の方の病気(家族歴)
  • 現在使われている他のお薬(併用薬剤)
  • 医薬品を使用する方の体質            など

  • 【原則禁忌(げんそくきんき)】とは
      当該医薬品を使用しないことを原則としますが、特別に必要とする場合には慎重な使い方を するべき患者を記載しています。

       本来は当該医薬品の使用を禁忌とするような場合であっても、 他に治療法が無いなどの理由から、特別に使用するときがあります。 その際は身体の様子を見ながら慎重な使い方をすることが必要とされています。

    臨床上,投与することの利益と不利益を比較して,説明して投与することは,医師の裁量権の範疇である,ということです.

    例えば,妊娠中に乳癌になった患者に,十分に説明したうえで抗がん剤を投与することもあるわけです.

    ですので,わたしはこれを,とんでもない判決とは思いません.